■ Hello School Library 一般作品(詩)■
Hello Schoolが選んだ一般の方の作品です。
無言電話
umineko

無言電話がかかってきたので、無言で待った。


遠くから、海の音がした。



作品の著作権は作者が保持します。無断転載を固く禁じます。
朗読 ベンジャミン (MP3 411KB)
 東京ベンズカフェ
  朗読コンテスト 複数回入賞
朗読 Tanpopo (MP3 268KB)
 インターネットラジオ 「ぽぽの放送」担当
Windows Media Playerが立ち上がるので、
画面を小さくするか隠したりして、本文を
見ながら聞くと効果的です。
形式…口語散文詩

主題…「寂寥という対話」

主な表現技法…反復法、隠喩法
解説

※はじめに
詩というものは、読み方は自由であり、ここで解説する内容
はあくまでも作者・編者の主観によるものであることを予め
記しておきます。


無言電話をかけるという行為、それ自体は負の感情に由来
するものでしょう。その行為に踏み込む側と、それを受け
止める側。
距離を隔てて対峙する、かたちを持たないコミ
ュニケーション。これが、作品の主題
になります。コミュニ
ケーションツールとはなり得ない「無言」というタームが
反復され、ふたりのよりどころとなっています。

無言であることで、私たちは気配に敏感になります。そこで
主人公が気付くのは、かすかな波の音、あるいは海鳥の
鳴き声でしょうか、背後の、海の存在。となると、相手は
どこにいるんだろう。波打ち際で砂を踏みしきながら、用心
深く非通知にした携帯電話。あるいは、海沿いの国道で、
所在無く立ちつくす公衆電話。

無言電話という、ある種卑劣で痛ましい行為はしかし、海と
いうアイテムを得ることで、あらたな意味を与えられることに
なります。主人公にとって得体のしれない恐怖/不安、それ
には違いないけれど、それは都市の持つ病理から発せられた
ものではないこと。すなわち、見知らぬ誰かではなく、とても
身近で、しかしことばを持たない何者かが、海辺に立つのでは
ないか、と。

このあと、ふたりの間にことばが降りてくるのかどうか、それは
わからない。相手を確かめるためのなんらかのアクションが
主人公から起こされるかもしれないし、このまま時間が過ぎる
のかもしれない。正解がないということも、詩に許された贅沢
です。

作品では、カ行やタ行という無声音を多用しています。有声音
は、「無言電話」の「無」、「海の音」の「うみ」「の」「お」くらい
です。無声音の乾いた響きと、挿入される「海の音」という文字
列の持つやわらかさに少し力を借りています。音のイメージ
や手触りに対して敬意を払うというのは、短歌や俳句と変わる
ところではありません。

憎しみや哀しみも。それさえ、私たちの営みの中で、どうしよう
もない弱さから発せられるものではないか。それを受け止める
ことができれば、世界は少し、変わることができるのかもしれ
ない。作品全体が、そういった事柄へのメタファ(暗喩*=遠い
たとえ)にもなっています。

(*暗喩:隠喩とも呼ばれ、こちらのサイトの解説ではそうなって
いるのですが、ここではあえて暗喩と表記しました。文章の流れ
からはそちらの方が寄り添うからです。ご了承下さい。)

詩は基本的にファンタジーであることを許されます。できれば、
そこに「希望」が内在されて欲しい。そんなふうにも、思います。

作者…umineko
 「現代詩フォーラム」主軸投稿者。  メインサイト…Club Seagull's
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